オバマ大統領が提起する「核なき世界」の光と影

 2009年4月5日、バラク・オバマ大統領は、チェコ共和国(昔のチェコスロバキア)の首都プラハで大勢の聴衆を前にして演説をおこないました。演説の内容は新聞各紙で報道され、世界的に大きな波紋を呼び、ノーベル平和賞の受賞に結びつきました。
 オバマ大統領の演説の意図がどこにあるのか検証します。

軍事同盟の強化

 チェコ共和国は、かつて社会主義国であったチェコスロバキアがアメリカの分裂支配策動によって、チェコとスロバキアに分裂してできた国です。現在チェコは親米政権であり、アメリカを中心とする軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)に加盟しています。
 オバマ大統領は、演説の冒頭、1968年に起きたプラハの春について触れました。プラハの春とは社会主義に反対する勢力がアメリカの策動のもとに引き起こした暴動で、その後、チェコスロバキアが分裂し、親米の道に入るきっかけとなりました。
 オバマ大統領は当時社会主義体制であったチェコスロバキアの人々が、いつか自由な資本主義社会に変わる機会は必ずあると信念をもってたたかったおかげで、今日ここに集うことができたと述べたのです。社会主義を捨てて市場経済を導入し資本主義に逆戻りしたチェコ共和国の歴史を、オバマ大統領が延々とたたえたところにプラハ演説の内容が集約されています。
 プラハ演説でオバマ大統領が主張したかったことの一つは、自由主義社会が一番よい社会であり、自由主義世界こそ最高であるということです。そして自由主義をめざして信念をもってたたかえば必ず勝利するということです。プラハ演説の基調の一つが社会主義を否定し、帝国主義を賛美する内容であったことについては、多くの人々はほとんど触れていません。
 オバマ大統領は、つぎに軍事同盟であるNATOをいっそう強化する方向を打ち出しています。オバマ大統領は、チェコをいかなる国が攻撃しても、アメリカをはじめとするNATO諸国はこぞってその国の攻撃に軍事的に対応すると明言しました。また、アフガニスタンへの武力進攻に触れながら、テロ対策を口実にアメリカに従属する協力関係を今後世界に拡大強化していくと主張しました。

まやかしの核兵器廃絶

 オバマ大統領は、「きょうわたしが重点をおいてお話しする課題のひとつは、この両国の安全保障にとって、また世界の平和にとって根本的な課題、すなわち21世紀における核兵器の未来という問題です」と述べ、本題に入りました。
 オバマ大統領は、21世紀における核兵器の未来という課題にたいする基軸は、全世界的な核不拡散体制にあると言いました。彼は現在核兵器を保有していることが問題ではなく、核兵器の拡散が問題であり、今後核兵器を保有する国を増やさないことが重要であると主張しました。
 そして、核兵器を使用したことがある唯一の核保有国としてアメリカが先頭にたって世界から核兵器をなくしていくことを宣言しました。
 ところが、その言葉の直後に「わたしは甘い考えは持っていません。この目標は、すぐに達成されるものではありません。おそらくわたしの生きているうちには達成されないでしょう」と、いますぐに核兵器をなくす考えではないということを明らかにしています。多くの人々には彼が先に述べたことばが強く印象づけられるため、あたかもすぐにでも核兵器のない世界をめざすかのような巧妙な演説となっています。実際には彼は自分が死ぬときまでは核兵器はなくならないと言っているのです。彼はまだ48歳ですから、80代まで長生きした場合は、今後40年以内は核兵器を廃絶できず、むしろ核兵器をなくす考えはないと言っているのです。ここに彼の本当のねらいが現われていることを見なくてはなりません。
 核兵器のない世界に向けて取らなければならない具体的な措置として彼があげたものはすべて軍縮と核不拡散のための措置だけでした。
 オバマ大統領は、核兵器の縮小と言いながら、核兵器の廃絶のための具体的措置については一切言及しませんでした。彼は核兵器があるかぎり核兵器でそれを抑止し、核兵器で世界を脅かし支配するために、自分たちは核兵器を維持しつづけると言明したのです。彼は核兵器のない世界をつくると言いながら一方で核兵器を維持するという矛盾した内容を平然と述べました。その結果、あたかも核兵器廃絶をうちだしたかのような印象を多くの人々に与えたのです。

核不拡散体制の徹底

 オバマ大統領は、「わたしたちは、兵器の保有量を削減する努力を始めます」と述べ、アメリカとロシアは、特に核兵器の削減のために努力し、他の核兵器保有国も核兵器削減に参加させると言いました。
 彼の主張を一言で言い換えれば軍縮です。アメリカやロシアがおこなう軍縮は、核兵器のない世界をめざした、第1段階の取り組みではありません。彼らが軍縮をおこなおうとする目的は二つの理由によります。
 一つは、国内の経済的事情によるものです。アメリカとロシアは、約6,000〜10,000発に及ぶ核兵器を保有しており、核兵器の維持費に苦慮しています。アメリカ政府は膨大な財政赤字をかかえ、破滅寸前の状態に陥っており、すぐにでもドルが暴落するかもしれないと言われるほど危機的状況にあります。
 核弾頭や運搬手段のなかには、老朽化し、実際には使用できなくなっているものが多くあります。古い核兵器を一方的に廃棄するのではなく、アメリカとロシアの間で話し合いながら削減し、核兵器を維持するための経済的負担を減らそうというのが、オバマ政権の狙いの一つです。アメリカ政府は、ロシアの核軍縮交渉に、中国や、フランス、イギリスなどの核兵器保有国も参加させ、核兵器削減の流れをつくろうとしています。しかし、彼らの軍縮は、核兵器廃絶にむかう軍縮ではなく、彼らの利害関係と国内事情にもとづくものにすぎません。
 二つは、核不拡散のためです。アメリカは軍縮を目的にして、軍縮自体を進めようとしているのではありません。彼らは軍縮を手段として利用して、実際には核不拡散を目的にしています。彼らは世界平和のためではなく、アメリカの利益のために、核兵器の拡散を阻止しようとしています。核兵器保有国であるアメリカが自己の利益のために、核兵器を保有していない国にたいして一方的に核不拡散を要求すれば、説得力に欠け、国際的な世論の反発を招き不利であるため、軍縮を手段として利用しているのです。
 彼は核不拡散条約(NPT)の正当性を主張しながらすべての国々の原子力エネルギーの平和利用を可能にする条件として、国際的な査察の強化を提起しました。原子力の平和利用を認める口実のもとに、査察を強化しようとしているのです。帝国主義者は、原子力の平和利用を認めると言いながら、国際的な査察を条件にして、査察を通して事実上、各国を武装解除してしまおうと狙っています。
 オバマ大統領は、核兵器を持とうとする国への弾圧と制裁について延々と述べ、朝鮮とイランを名指しで非難して圧力をかけました。
 演説の終盤に、世界で起きている暴力と不正の張本人はアメリカであるにもかかわらず、彼は次のように述べました。「この世界には暴力と不正があり、わたしたちはそれに立ち向かわなければなりません。その際に、わたしたちは、分裂するのではなく、自由な国家、自由な国民として結束しなければなりません」
 最後に彼は「人間の運命は、わたしたちが自ら切り開くものです」とまで言いました。彼は、人々を反動的な意図にもとづいて動くように巧みに煽動しているのです。

アメリカ中心の核独占体制の構築

 オバマ演説の本質を一言で言えば、核のない世界をつくるのではなく、アメリカを中心とした核独占体制を構築することです。彼は、アメリカを中心とする核独占体制を世界的な範囲で構築するためにプラハで演説をおこなったのです。
 にもかかわらず、日本では多くの人々が彼の話術に乗り、オバマ演説を賞賛し、核兵器のない世界が近づくのではないかと歓迎しています。
 プラハでの演説の後、オバマ大統領は、7月6日にモスクワを訪問して、ロシアのメドヴェージェフ大統領と会談しました。米ロ首脳会談では、2009年12月5日に失効する戦略核兵器削減条約(START)の次期条約の案として、アメリカとロシアは、戦略核弾頭を1500〜1675発の範囲まで、大陸間弾道ミサイルなどの戦略的運搬手段を500個〜1100個の範囲まで削減することで合意しました。オバマ大統領がさっそく軍縮に動いたのです。しかし、彼の行動は平和を実現するためではなく、アメリカの利益を貫くために、核不拡散体制を徹底させるうえでのアリバイづくりのための行動であり、すばやい動きではあっても驚くに値しません。
 7月の米ロ首脳会談では、戦略兵器削減条約では合意が得られたもののミサイル防衛システム(MD)については対立し合意は得られませんでした。MDは、事実上核兵器による先制攻撃を可能にする道を開くものであり、MDの配備が中止されなければ核兵器による先制攻撃の危険を実質的に取り除くことはできません。米ロ首脳会談自体がアリバイづくりのためのものであったことが明らかです。
 9月24日、国連安全保障理事会が、核不拡散・核軍縮に関する首脳会合を開催し、アメリカが提起した核兵器のない世界をめざす決議を全会一致で採択しました。国連安保理決議の主な内容は、核不拡散体制を強化し、核不拡散を順守していくことをめざすものになっています。
 10月9日に、オバマ大統領へのノーベル平和賞授与が決まったことが発表され、世界中の人々が驚きました。オバマ大統領は大統領に就任して、まだ約九ヶ月しか経っておらず、国際的な条約一つ結んだわけではありません。オバマ大統領へのノーベル平和賞授与は、成果ではなく、理念にたいして授与される賞であるというのがマスコミの一致した見解になっています。
 彼のかかげる理念が真実であれば、理念にたいして授与される歴史上初めての出来事として看過することもできるでしょう。しかし、核兵器のない世界という理念自体が、核体制をむしろ強化することを目標にしたものであるため容認しがたいのです。