視点

拡大するアスベスト被害

 アスベスト(石綿)による健康被害が明らかになり、大きな波紋を呼んでいます。
 7月15日、経済産業省は、クボタ松下電工外装(旧神崎工場・兵庫県尼崎市)では74人、ニチアス王子工場(奈良県天王町)では57人など総計27社、374人の従業員がアスベストが原因で亡くなったことを発表しました。

家族や周辺住民にもおよぶ被害

 発表された数は親会社の社員だけであり、下請け、孫請けとして働いていた従業員はほとんど含まれていません。 また、アスベストによってかかるがん「中皮腫」は、石綿を扱う工場の社員だけではなく、その家族にも及んでいます。夫の作業服を洗濯していた妻4人が中皮腫で死亡していたことが確認されました。クボタは因果関係を認め、遺族に約3000万円の保証金を支払っています。
 さらに、最近では工場の周辺住民5人が中皮腫を発病し、2人が亡くなっていたことも明らかになりました。
 厚生労働省は、15日、2003年の人口動態統計で、中皮腫で死亡した878人について追跡調査をすることを決めました。中皮腫による死亡者は毎年増えています。
 アスベストは30〜40年間の潜伏期間をへて発病することから「静かな時限爆弾」と呼ばれています。70年代以降、建材に石綿が大量に使用され、解体は2020年〜40年にピークを迎えるとみられているため、今後、ますます被害が拡大することが予想されます。

全面禁止が世界的潮流

 石綿関連の病気が疫学的に立証されたのは1955年、イギリスで肺がんとの関係が明らかにされたときからです。
 また、石綿の発がん性は72年に国際労働機関(ILO)と世界保健機構 (WHO)の専門会議が確認しました。
 日本では75年、石綿を発がん性物質とし、天井などの吹き付けを禁じました。ただ石綿の使用そのものは「管理濃度」を設けて認められていました。
 しかし、外国でははやくから全面禁止にふみきっていました。(ノルウェー84年、オランダ91年、イタリア、フィンランド92年、ドイツ93年、フランス96年など) 日本は発がん性の強い青石綿と茶石綿の使用禁止が95年、白石綿も含めた原則禁止は04年10月と遅く、全面禁止は08年の予定です。

後手にまわった対策

 石綿は安価で熱や科学物質にたいする耐久性も高く、便利で重宝だったために業界もアスベストを手放せず、行政も業界の反発を恐れて規制が遅れたのではないかとみられています。
 92年、石綿被害を知った社会党(当時)によって「アスベスト規制法案」が議員立法で国会に提出されました。 しかし、提出前に業界団体の日本石綿協会が「健康障害は起こりえないと確信できる」などとした見解を文書で政府と省庁に配布し、自民党などの反対で一度も審議されないまま廃案になっていたことがわかりました。 
 石綿が原則禁止になったのは昨年ですから今から13年前に法案が成立していれば、将来被害が拡大することを防ぐことができたといえます。
 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」では、行政の怠慢を批判し、15日、下請け企業を含めた被害実態調査や情報の公開、治療薬の早急な承認などの要望書を提出しました。
 コストや効率重視ではなく、何よりも人間の命を大切にする政治が求められています。