インタビュー

歴史の真実を闇に葬らせてはならない

―西野瑠美子さん(ジャーナリスト)―

 従軍慰安婦問題を問うNHK・ETV特集第2夜「問われる戦時性暴力」が政治家の圧力によって改ざんされたとNHKのチーフプロデューサー長井暁さんによって内部告発され、大きな反響を巻き起こしました。
 取材に協力したVAWW-NETジャパン(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)は、取材依頼時の説明とはまったく反する内容になったことで裁判を起こしています。共同代表の西野瑠美子さんにお話を伺いました。

−NHKが特集番組のために取材した「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下法廷)とは何ですか。

 日本は戦時中にアジア各国の女性を詐欺や拉致などにより慰安所に連行し、本人の意思に反して「慰安婦」を強い、日本軍の性奴隷にしました。それは女性に対する重大な暴力であるにもかかわらず、東京裁判で裁かれることはありませんでした。
 90年代に入り、旧ユーゴやルワンダでおきた紛争下における性犯罪は、戦犯法廷で裁かれるようになり、国際刑事裁判所のローマ規程にも戦時性暴力が犯罪として明記されるようになりましたが、過去の問題には遡及しません。
 91年、韓国の金学順さんが名乗り出て以来、「慰安婦」被害女性たちは責任者処罰を求めてきました。戦時性暴力が繰り返される原因となっている不処罰の循環を断ち切るため、また、裁きなくして被害者の尊厳の回復はないと考え、被害者の正義の実現を目指して98年に、VAWW-NETジャパンはアジア各国と国際社会に女性国際戦犯法廷の開催を提案したのです。
 2000年12月8日から12日にかけて東京でおこなわれた「法廷」には、8ヶ国64人の被害女性が参加し、30か国以上約400人が参加し、連日1000人を超える人々が傍聴しました。
 最終日には「人道に対する罪で昭和天皇裕仁有罪、日本国家の責任」という判決の概要が言い渡されました。
 「法廷」当日は、海外から95社200名のメディアが取材し、アジアだけではなく欧米各国は「法廷」を詳しく報じました。しかし、それとは対照的に、日本のメディアは一部を除いては全く報じようとはしませんでした。

真実を覆い隠す改ざん

−番組のどの部分が改ざんされたのですか。

 誰が被告で、どのような審理が行われ、どのような判決が下されたのかという「法廷」の基本情報、「法廷」の意義を語る松井やよりさんのインタビューや、「法廷」を評価した米山リサさんのコメント、中国や東チモールの被害者証言や元日本兵の加害証言などがカットされました。また、つじつまを合わせるために町永アナウンサーの司会と高橋哲哉(当時東大助教授)氏のコメント部分が撮り直され、「法廷」に批判的な秦郁彦氏のコメントが大幅に追加されたのです。カットはオンエア直前までおこなわれ、44分番組は40分という前代未聞の形で放送されました。

長井さんの証言を生かして

−長井さんの内部告発によって政治介入が初めて明らかになったわけですね。

 不利益を被ることは覚悟のうえで4年間の沈黙を破って内部告発した長井さんを守らなければという声が聞かれますが、私は長井さんを守ることは処分されないようにすることだけではなく、長井さんの証言を生かし、真実を明らかにし、NHKと関与した国会議員の責任を明確にしていくことだと思います。長井証言は推測ではなく、自らが関わった重要な証言です。そこにもっと光を当てるべきではないでしょうか。

−日本のメディアが圧力に負けないで正しい報道をしていくためにはどうしたらよいでしょうか。

 コンプライアンス推進室の調査報告は、政治家に対する放送前の事前説明を「通常業務」とし、「政治家の介入はなかった」と結論づけましたが、それは放送の自律、放送現場の表現の自由、報道の自由の放棄を認めるとんでもない見解です。このような事態が常態化していることは問題です。このままこの問題を終わらせずにNHKを変えていくのはメディアを含めた市民の責務ではないでしょうか。メディアは、問題の核心を見失うことなく、真実を追究してほしいですね。
 NHKの海老沢元会長が顧問を辞めざるを得なくなったのは世論の力です。人々の声はNHKを動かすことができることを示しました。今回の政治家の行為は、日本政府が幾度となく繰り返してきた「反省」と「おわび」に反するものです。これに対しても声を上げていくことが必要です。

(2月9日編集部でインタビュー)