インタビュー

山の美しさを伝えたい

田部井淳子さん(登山家)
アシニボイン(カナダ)の岸壁を登る
(2002年)

地球上で一番高い山エベレスト(標高8848メートル)に世界で初めて登頂した女性、田部井淳子さんにお話しを伺いました。

女子登攀クラブを結成

−小さいときは身体が弱かったそうですね。

 私はよく扁桃腺をはらして月に一回は40度近い熱を出して学校を休んでいる弱い子でした。中、高でも体育は見学が多かったのですが、大学の頃から山登りを始め、毎週毎週山に登るなかで体力や持久力もつき、長時間重い荷物をもって歩けるようになったのです。だから誰でもコツコツと訓練さえすれば高い山にも登れるのです。

−なぜ女性だけでエベレストに登られたのですか。

 男性と女性が登山をしていて一番ちがうのはスピードです。歩く、走る、登る速度がちがう。また岩登りのときはほんのわずかな手がかりに届かなかったり、歩幅もちがう。
 男性といっしょだと連れていってもらったという気持ちがあり、女性だけで登った方が満足感が大きいのです。
 それで女性だけでヒマラヤへ行こうという方々と1969年に女子登攀クラブをつくりました。まず7000メートルの山に登り、次に8000メートルの山としてエベレストを選びました。

女性の特徴を生かして

 高い山に登ると頭が痛くなったりする高山病になりますが、それは男性も女性も同じです。女性は速度が遅いため、かえって高地順化がよいのです。
 山では限られた食品で食事をつくらなければなりませんが、生活経験が豊富な女性はアイデアがいっぱいでてきます。女性ははったりや面子にこだわらず、自分が言ったことはやりぬく人が多いので信頼ができます。
 しかし、日本では女性が男性にしたがって生きてきた歴史が長いせいか、能力的にはまったく差がないのに、議員の数は圧倒的に女性が少ないですね。
 これからの女性は公の場でも自分はこう思うということをはっきり主張することが大事だと思います。私も有言実行をモットーとしているのです。

一人では登れなかった山

 エベレスト登頂者として私だけがマスコミに取り上げられたことは実は不満でした。なぜなら絶対一人では登ることができない山だからです。シェルパの力もあったし、600人ものポーターが荷物を運んでくれました。そして15名の隊員の協力があってできたのです。たまたま私が肉体的条件がよかっただけなのです。ちょうど国際婦人年(1975年)と重なったこともあって、世界の人々の反響も大きかったです。

山はきれいなままに

 世界最高峰のエベレストもいまでは毎シーズン300人近い人が登るようになり、ゴミの問題が浮上しました。
 ヒラリー卿(エベレストに最初に登頂した人)が自分が登ったときはきれいだったのにいまはこんなに汚れてしまったと言われたことがきっかけで、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(略称HAT−J)をつくりました。
 私たちは最初からトイレの紙も持ち帰りましたが、「もっていったゴミはもって帰ろう」と、啓蒙とマナーを守る活動を始めたのです。この活動は国際山岳連盟でも評価されています。
 毎年夏だけで40万人から50万人が登る富士山でも、いまでは登山者の意識が高くなり、きれいになってきました。山はもともと美しいのですからいつまでもきれいなままにしたいものですね。